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2025.01.14  愛犬がボーっとしている|犬の甲状腺機能低下症について

最近、愛犬が「元気がない」「体重が増えている」「毛並みが悪い」と感じることはありませんか? これらは加齢のせいと思われがちですが、実は「甲状腺機能低下症」という病気の可能性があります。この病気は人間の橋本病に似た自己免疫疾患であり、甲状腺ホルモンの不足が原因で、犬の体全体にさまざまな影響を与えます。

今回は犬の甲状腺機能低下症について、症状や特徴、治療方法などを詳しく解説します。

■目次
1.甲状腺機能低下症とは?
2.主な症状と特徴
3.診断方法
4.治療方法
5.甲状腺機能低下症とクッシング症候群の違い
6.よくある質問
7.まとめ

 

甲状腺機能低下症とは?

甲状腺機能低下症は、甲状腺という臓器が十分なホルモンを作れなくなる病気です。このホルモンは、体の代謝をコントロールする重要な役割を担っています。ホルモンバランスが崩れると、エネルギー消費が低下し、それに伴い体のさまざまな機能がスムーズに働かなくなります。

特に中高齢の犬に多く見られる病気です。猫の場合は、逆にホルモンが過剰分泌される「甲状腺機能亢進症」が一般的であり、犬とは異なる病態です。

 

主な症状と特徴

甲状腺機能低下症の症状は、「外見的な変化」と「行動の変化」に分類されます。

【外見的な変化】
<体重増加>

代謝が低下することにより、食事量が変わらないにもかかわらず、太りやすくなります。

 

<毛並みの悪化>

毛がぼそぼそになり、抜け毛が増えたり、毛が薄くなったりします。

 

<皮膚症状>

皮膚が乾燥して荒れたり、皮膚炎を起こしやすくなったりします。

 

<顔つきの変化>

粘液水腫と呼ばれる状態が真皮に発生します。これにより、顎や顔面の皮膚、瞼の皮膚がむくむように厚くなり、「顔のしわ」が目立つようになります。その結果、顔全体が悲しげな風貌になることがあります。

 

【行動の変化】
<元気がない>

活動量が減り、無気力になることがあります。

 

<寒がりになる>

代謝の低下により体温を維持しにくく、暖かい場所を好むようになります。

 

これらの症状は徐々に現れてくるので年齢のせいと見過ごされがちですが、甲状腺機能低下症の兆候かもしれません。愛犬が「最近なんとなく元気がない」というケースでも、一度獣医師に相談することをお勧めします。

 

診断方法

甲状腺機能低下症は血液検査で診断が可能です。少量の血液を採取し、甲状腺ホルモンの値を測定します。その結果が基準値以下の場合、甲状腺機能低下症の可能性が高いです。

しかし、似た症状を持つ他の疾患もあるため、必要に応じて追加で検査を実施する場合があります。

 

治療方法

治療の基本は内服薬による甲状腺ホルモンの補充ですが、ホルモンの値や臨床症状によってはすぐに内服を始めず経過観察になることもあります。この病気は根本治療が難しく、ホルモンの補充という対症療法となるため、基本的には生涯に渡って投薬が必要です。

また、治療により性格の変化が見られることもあります。例えば、もともと少し攻撃性のあった子が甲状腺機能低下症により大人しくなっていたが、治療により再度攻撃的になってしまったなどのケースもあります。

甲状腺機能低下症と診断された場合は、治療のメリットとデメリットを総合的に判断しながら、飼い主様と獣医師が協力して治療計画を立てることが重要です。

 

甲状腺機能低下症とクッシング症候群の違い

甲状腺機能低下症は、他の病気と症状が似ている場合があります。その中でも特に似ているのが「クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)」です。この病気は副腎皮質ホルモンが過剰分泌されることで発症します。症状は治りにくい皮膚病や脱毛、筋肉量の減少による活動性の低下や肥満が見られるため、甲状腺機能低下症との区別が大切です。

実際に当院でも、他院で甲状腺ホルモンの値が低いことから甲状腺機能低下症と診断され、薬を服用していた症例があります。しかし、その子は皮膚症状がなかなか改善せず、当院を受診した結果、クッシング症候群が原因であることが判明しました。

また、甲状腺ホルモンの値は、クッシング症候群を含む他の病気の存在により低下することがあります。この場合は甲状腺のお薬は必要なく、元にある病気を治療すれば甲状腺ホルモン値も正常化します。

このようなケースがあるため、甲状腺機能低下症が疑われる場合でも、他の疾患が隠れていないかを確認するために全身の検査が必要となります。

 

よくある質問

Q:甲状腺機能低下症と気づかずに、治療をしないで放置したらどうなりますか?

A:治療をしない場合、皮膚病などの合併症のリスクが上がります。心臓に負担がかかり、徐脈や心不全を引き起こす可能性があります。屋外飼育の犬では、冬に低体温症を起こす危険があります。

また、甲状腺機能低下症に罹患していることに気づかず、麻酔をかけると、覚醒の遅れや低体温症のリスクが高まり、命の危険につながることもあります。

 

Q:検査をしたのに、診断結果を間違う可能性があるのはなぜですか?

A:甲状腺ホルモンの検査はクッシング症候群の検査と比べて、気軽に行うことができる検査です。甲状腺ホルモンの検査は一度の採血で結果がわかりますが、クッシング症候群の検査では、特殊な薬を注射する前と注射後1時間の計2回の採血が必要です。そのため、クッシング症候群が疑われる場合でなければ、検査が実施されにくい傾向があります。

ただし、甲状腺ホルモンの検査だけで診断を終えてしまうと、クッシング症候群などの併発疾患を見逃してしまうリスクがあります。そのため、症状に応じて適切な検査を選択し、正確な診断を行うことが大切です。

 

まとめ

犬の甲状腺機能低下症は、適切な診断と治療によって良好な予後が期待できる病気です。特に毛並みや活動性の低下が見られる場合は加齢のせいと決めつけず、早めに動物病院で検査を受けることをお勧めします。

愛犬の健康を守るために、少しでも気になる症状があれば、すぐに獣医師に相談しましょう。

 

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