2025.08.08 犬や猫のステロイド剤について|正しい理解と注意点を獣医師が解説
犬や猫の病気を治療するなかで「ステロイド剤」という言葉を耳にしたことがある飼い主様は多いのではないでしょうか。ステロイド剤は、アレルギーや炎症を抑える目的でよく使われる薬ですが、「副作用が気になる」「長く使って大丈夫?」といった不安の声もよく聞かれます。
実際には、ステロイド剤は正しく使用すれば、症状の緩和や生活の質の改善に大きく貢献してくれる薬です。ただし、使い方には注意が必要なため、安心して治療を進めるためにも、獣医師の指示に従って使用することが大切です。
今回は、犬や猫のステロイド剤の正しい知識や治療における役割、使用時の注意点などについてご紹介します。
■目次
1.ステロイド剤の基本
2.ステロイド剤使用時の注意点
3.犬へのステロイド剤投与
4.猫へのステロイド剤投与
5.よくある質問(Q&A)
6.まとめ
ステロイド剤の基本
ステロイド剤とは、犬や猫の体内でも自然に作られている「副腎皮質ホルモン(グルココルチコイド)」という成分をもとに作られた薬です。このホルモンには、炎症を抑えたり、免疫の働きを調整したりする作用があります。薬として投与することで、以下のような効果が期待できます。
<炎症を抑える作用(抗炎症作用)>
皮膚炎や関節炎、気道の炎症など、体内の過剰な炎症反応を鎮めることができます。
<免疫の過剰な働きを抑える作用(免疫抑制作用)>
アレルギー反応や自己免疫疾患などにおいて、体内で異常に活性化した免疫を落ち着かせる効果があります。
このような働きにより、ステロイド剤は多くの疾患で非常に効果的に用いられています。適切に使うことで、症状をコントロールし、生活の質を大きく改善することが可能です。
ステロイド剤使用時の注意点
ステロイド剤は効果の高い薬ですが、その反面、使い方を誤ると体に負担をかけてしまうことがあります。以下の点に注意して、安全に治療を進めましょう。
<必ず処方通りに使用する>
ステロイド剤は、必ず獣医師の指示通りに使い続ける必要があります。「元気になったから」「副作用が怖いから」といった理由で自己判断で中止してしまうと、リバウンドと呼ばれる症状の急激な悪化が起こることがあります。また、体がホルモンの外部投与に慣れてしまっている場合、急にやめることで体内のホルモンバランスが崩れ、命に関わるような重大な影響を及ぼすこともあります。
<副作用への理解と対応>
多くの場合、短期間や少量の使用では大きな副作用は見られませんが、長期間の使用や体質によっては以下のような副作用が見られることがあります。
・水をたくさん飲んだり、おしっこや食欲が増えたりする(多飲多尿・多食)
・肝臓の働きに負担がかかり、血液検査で肝酵素の数値が上がる
・皮膚が薄くなったり、毛が抜けやすくなったりする
・免疫力が低下し、感染症にかかりやすくなる
・筋肉量が減少する
・下痢や嘔吐などの消化器症状が出る
こうした副作用は、薬の量や使用期間を調整することで改善することが多いため、過度に心配しすぎる必要はありません。ただし、もし体調の変化やいつもと違う様子が見られた場合は、すぐに獣医師に相談することが大切です。
犬へのステロイド剤投与
犬では以下のような病気で使用されます。
<アトピー性皮膚炎・アレルギー性皮膚炎>
かゆみや炎症を抑えることで、犬が掻いたり舐めたりすることが減り、皮膚の状態が改善されます。
<炎症性腸疾患(IBD)>
下痢や嘔吐といった消化器症状を軽減し、食欲や元気の回復につながります。
犬と猫の炎症性腸疾患の原因や治療方法、対処法についてより詳しく知りたい方はこちら
<アレルギー反応>
ハチ刺されや食物アレルギーなどによる急性の症状(じんましん、呼吸困難など)を速やかに抑えるために使われます。
<免疫介在性疾患(免疫介在性溶血性貧血、血小板減少症など)>
体が自分の血液細胞を攻撃してしまう状態において、免疫の異常な働きを抑え、命に関わるような危険な状態を防ぐことができます。
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※注意が必要なケース
高齢または糖尿病を患っている犬では、副作用が出やすくなる傾向があります。そのため、使用に際しては特に慎重な管理が求められます。投与中は定期的な検査や診察を行い、体の状態をしっかりと見守ることが大切です。
猫へのステロイド剤投与
猫でも以下のような病気に用いられます。
<猫喘息>
気道に起こる慢性的な炎症を抑えることで、咳や呼吸困難といった症状を軽減し、呼吸が楽になります。
<炎症性腸疾患(IBD)>
食欲不振や体重減少、下痢などの消化器症状を和らげ、日常の食事がスムーズにとれるようになります。
<皮膚炎・アレルギー性皮膚炎>
かゆみや赤みを抑えることで、皮膚を掻きむしることが減り、皮膚の状態が改善します。
<口内炎>
口の中の痛みや炎症を抑えることで、食事のしづらさが改善され、体重の回復にもつながります。
※長期使用時の注意点
猫は犬よりも糖尿病になりやすいという特徴があります。そのため、ステロイド剤を長期間使用したり、高用量で投与したりする場合は、定期的な血糖値の確認が必要です。
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よくある質問(Q&A)
Q:他の犬や猫に処方されたステロイド剤を使っても大丈夫ですか?
A:いいえ、絶対に避けてください。ステロイド剤の必要量や使用期間は、犬や猫の体格や体調、病気の内容によって異なります。自己判断で投与すると、副作用や症状の悪化を招く危険があります。
Q:「効いていない気がする」「嫌がって飲ませられない」ので、やめてもいいですか?
A:自己判断で中止してしまうと、症状が悪化することがあります。無理に飲ませることが難しい場合、注射タイプなど代替手段がありますので、必ずご相談ください。適切な対応によって、安全に治療を続けることが可能です。
Q:副作用が出た場合はどうすればよいですか?
A:まずは落ち着いて、すぐに動物病院へご連絡ください。副作用の多くは薬の量を調整することで改善が期待できます。副作用が出たとしても、過度に恐れることなく、獣医師のアドバイスに従って治療を進めていきましょう。
まとめ
ステロイド剤は、犬や猫のさまざまな病気において高い効果を発揮する非常に重要な薬です。正しい知識と使い方を理解することで、副作用のリスクを抑えながら安全に治療を進めることができます。何よりも大切なのは、自己判断で投薬を中断したり、他の犬や猫の薬を流用したりしないことです。
当院では、犬や猫の体調や生活スタイルに合わせて、安全で効果的な治療を提供できるよう心がけております。安心して治療を受けていただけるよう、丁寧にご説明させていただきますので、気になる症状がある場合はお気軽にご来院ください。
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