2025.06.09 犬の体が自分を攻撃する免疫介在性疾患とは?|免疫の暴走を防ぐ日常ケアと食事管理
「免疫」と聞くと、多くの方は風邪や感染症から体を守ってくれる仕組みを思い浮かべるかもしれません。実際、免疫は体内に侵入したウイルスや細菌などを攻撃し、健康を守るために欠かせない存在です。
しかし、この免疫が何らかの原因で異常を起こし、自分の体の一部を“敵”とみなして攻撃してしまうことがあります。こうした状態を「免疫介在性疾患」と言い、赤血球や血小板、皮膚、関節などにさまざまな不調を引き起こします。特定の犬種で発症しやすい傾向はありますが、どの犬にも起こり得る病気です。
今回は犬の免疫介在性疾患について、症状や治療方法、日常生活でのケアなどを解説します。
■目次
1.主な免疫介在性疾患とその症状
2.診断方法
3.治療方法
4.日常生活でのケアと予防
5.まとめ
主な免疫介在性疾患とその症状
免疫介在性疾患には、さまざまな種類があり、攻撃対象によって症状が大きく異なります。代表的な疾患やその症状には、以下のようなものがあります。
<免疫介在性溶血性貧血(IMHA)>
赤血球が免疫の異常によって破壊されてしまう病気です。酸素を全身に運ぶ働きが低下するため、体にさまざまな異変が起こり、命に関わる場合もあります。
特にマルチーズ、シー・ズー、プードル、コッカー・スパニエルなどの犬種は発症のリスクが高いことが知られています。
主な症状としては、以下が見られます。
・食欲がなくなる
・すぐに疲れる
・呼吸が速くなる
・歯茎が白っぽくなる
<免疫介在性血小板減少症(ITP)>
血液を止める役割を持つ血小板を、免疫が誤って攻撃してしまう病気です。その結果、出血しやすくなり、血が止まりにくくなります。
主な症状としては、以下が見られます。
・鼻血
・血尿
・皮膚に点々とした内出血
進行すると貧血を起こし、命に関わることもあります。ITPは急性に発症する可能性が高いため、早期の発見と治療が非常に重要です。
<その他の免疫介在性疾患>
免疫介在性疾患は、血液に限らず、以下のような関節や皮膚などの組織にも発生します。
■関節リウマチ
免疫が関節を攻撃することで炎症が起こり、発熱や腫れ、痛みなどが見られます。
■免疫介在性皮膚疾患(エリテマトーデスや天疱瘡など)
皮膚が赤くなったり、水ぶくれやかさぶたができたりと、見た目に明らかな変化が生じます。
診断方法
免疫介在性疾患は、見た目や症状だけでは判断できないため、以下のような検査が行われます。
<血液検査>
赤血球や血小板の数を確認します。
<顕微鏡検査>
赤血球や血小板の異常な細胞の有無を確認します。
<レントゲン検査>
胸部や腹部を撮影し、腫瘍や臓器の異常など他の病気がないかを確認します。
<超音波検査(エコー検査)>
内臓の状態や腫瘍の有無などを詳しく観察し、免疫疾患以外の原因を除外します。
<関節穿刺検査>
関節リウマチが疑われる場合は、関節内の液体を採取して、炎症の程度や原因の特定を行います。
<皮膚の病理検査>
免疫介在性皮膚疾患が疑われる場合は、皮膚の一部を採取し、細胞の状態を顕微鏡で確認します。
治療方法
治療の目的は、暴走している免疫の働きを抑えることです。そのため、プレドニゾロンなどのステロイド薬や、シクロスポリンなどの免疫抑制剤を用いて免疫の働きをコントロールします。貧血が重度な場合には、輸血が必要となるケースもあります。
これらの治療は長期にわたることが多く、副作用の管理や再発防止も含めた継続的なケアが求められます。
日常生活でのケアと予防
残念ながら免疫介在性疾患には、完全な予防方法はありません。しかし、日々の生活の中で免疫バランスを安定させ、再発や重症化のリスクを減らすことは可能です。
飼い主様が実践できるケアのポイントは、以下の通りです。
<食事管理>
食事は免疫の安定に直結します。獣医師から療法食が指定されている場合は指示を守りつつ、基本は「消化によく、栄養バランスの取れた質の良いフード」を選ぶことが大切です。
免疫力をサポートするとされる栄養素には以下のようなものがあります。
■オメガ3脂肪酸(EPA・DHA)
サーモンやマグロなどの魚に含まれる脂肪酸は、炎症を抑える効果があります。アレルギーの緩和や免疫の調整に役立ちます。
■乳酸菌・発酵食品
ヨーグルトや納豆などの発酵食品に含まれる乳酸菌は腸内環境を整え、腸から免疫力を底上げしてくれます。
※これらを与える際は整腸作用が強いため、便の状態を見ながら量を調整してください。
■食物繊維
リンゴやキャベツなどに含まれる食物繊維は腸内の善玉菌を活性化させ、免疫の調整を助けます。
※これらの食材やサプリメントは、薬との相互作用が起きたり、体質に合わなかったりすることがあります。そのため、与える前に必ず獣医師にご相談ください。
<ストレスの軽減>
強いストレスは免疫の働きを乱し、病状の悪化や再発を引き起こす要因にもなります。散歩やおもちゃ遊びで軽く体を動かすことは、ストレス解消に効果的です。体調に合わせて無理のない範囲で行いましょう。
<落ち着けるスペースの確保>
静かで安心できる寝床を用意し、愛犬が落ち着いて過ごせる環境づくりを心がけましょう。
<スキンシップやマッサージ>
飼い主様とのふれあいは、犬にとって大きな安心になります。優しくマッサージしてあげたり、声をかけてあげたりするだけでも気持ちが落ち着きます。
<定期的に健康診断を受ける>
免疫介在性疾患は、症状が落ち着いても再発の可能性があるため、定期的な健康チェックが欠かせません。年に1~2回は健康診断を受けることをお勧めします。
また、ステロイドや免疫抑制剤は副作用が出やすいため、肝臓や腎臓の機能を確認するための血液検査なども必要になります。治療を中断しないためにも、獣医師と相談しながらスケジュールを立て、定期的に通院しましょう。
まとめ
免疫介在性疾患は、犬にとって命に関わることもある深刻な病気ですが、適切な治療と日々のケアによって、うまくコントロールできる場合が多くあります。
大切なのは、病気の理解と、飼い主様による日常のサポートです。食事や生活環境、定期的な健康チェックを通じて、免疫の安定を保っていくことが、再発の予防と症状の改善に直結します。
「最近なんだか元気がない」「体調が安定しない気がする」など、少しでも気になることがあれば、お気軽に当院までご相談ください。
当院では、犬の免疫疾患についても専門的な立場からしっかりサポートいたします。
茨城県下妻市・筑西市・八千代町を中心に診察を行う 稲川動物病院
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