2025.03.10 その耳掃除、逆効果かも?|獣医師が教える犬や猫の耳ケア完全ガイド
犬や猫の耳を清潔に保とうと、こまめに耳掃除をしている飼い主様も多いのではないでしょうか。しかし、自己流の耳掃除はかえって耳を傷つけ、病気の原因になってしまうこともあります。特に、犬や猫の耳はとてもデリケートで、人間の耳とは異なる特徴を持っています。
「耳垢がたまっている気がする」「耳が汚れているように見える」と心配になっても、実は無理に掃除をしなくても自然に耳垢が排出されることがほとんどです。間違った耳ケアを続けると、外耳炎や中耳炎などの病気につながる可能性もあるため、正しい知識を身につけることが大切です。
今回は犬や猫の耳ケアについて、病気のサインや適切な耳掃除の方法などを詳しく解説します。
■目次
1.犬や猫の耳の構造と特徴
2.耳の病気のサイン
3.動物病院での正しい耳掃除の方法
4.耳掃除の注意点と危険性
5.稲川動物病院の皮膚科専門診療について
6.よくある質問(Q&A)
7.まとめ
犬や猫の耳の構造と特徴
犬や猫の耳は、外側から「耳介」「外耳」「中耳」「内耳」の4つの部分に分かれています。それぞれの役割と特徴を見ていきましょう。
<耳介(じかい)>
耳の外側の部分で、音を集める役割を持っています。軟骨でできており、犬種や猫種によって形状が異なります。たとえば、柴犬やシェパードのようにピンと立った「立ち耳」、ラブラドール・レトリーバーやゴールデン・レトリーバーのように垂れた「垂れ耳」、スコティッシュ・フォールドのように折れ曲がった「折れ耳」などがあります。
<外耳(がいじ)>
耳介から鼓膜までの部分で、外耳道(耳の穴から鼓膜までの管)が含まれます。犬や猫の外耳道はL字型に曲がっており、汚れが自然に外へ排出される仕組みになっています。ただし、外耳道の皮膚は非常に薄く、ちょっとした刺激でも傷ついてしまうため、過剰な耳掃除は危険です。
<中耳(ちゅうじ)>
鼓膜の内側にあり、鼓膜を振動させて音を内耳へと伝える役割を担っています。耳小骨や耳管(じかん)があり、これらが正常に働くことで音が正しく伝わります。
<内耳(ないじ)>
聴覚だけでなく、バランス感覚をつかさどる重要な部分です。内耳の異常は、ふらつきや首をかしげるといった前庭症状を引き起こすことがあります。
犬や猫の耳は、人間よりも高い周波数の音を聞き取る能力があり、特に猫は超音波レベルの音まで感知できます。また、垂れ耳の犬は通気性が悪く、耳の中が蒸れやすいため、外耳炎になりやすい傾向があります。
耳の病気のサイン
耳の異常は、以下のような症状として現れることがあります。
・耳を頻繁にかく、頭を振る:外耳炎の可能性があります。
・耳が赤く腫れている、耳垢の量が増えた:外耳炎や中耳炎を引き起こしていることがあります。
・耳から異臭がする:感染症や外耳炎を引き起こしていることがあります。
・首をかしげる、ふらつく、目が揺れる:中耳炎や内耳炎を引き起こしている可能性があります。
・呼びかけに反応しない:聴覚障害や内耳炎が発生していることがあります。
このような症状が見られた場合は、放置せずに動物病院で診察を受けることをおすすめします。
動物病院での正しい耳掃除の方法
動物病院では、耳掃除をする際に以下の2つの目的を重視しています。
・過剰な耳垢による耳道内環境の悪化を防ぐため
・点耳薬の浸透を妨げる耳垢を除去し、治療効果を高めるため
実際の耳掃除の手順は、以下の通りです。
①専用の洗浄液を耳の中に入れて、耳垢を柔らかくする
②耳の根元を優しくマッサージし、薬液を浸透させる
③コットンやガーゼで余分な薬液と耳垢を拭き取る
基本的に、健康な耳であれば動物病院でも耳掃除は不要とされています。必要かどうかは獣医師の判断に任せましょう。
耳掃除の注意点と危険性
前述したように、過剰な耳掃除はかえって耳に悪影響を及ぼすことがあります。特に注意すべきリスクとして、以下が挙げられます。
・外耳道を傷つけることで外耳炎を引き起こす
・慢性的な外耳炎になると治療が難しくなる
・猫では耳掃除が原因で前庭症状(首をかしげる、ふらつき)が出ることがある
基本的に、自宅での耳掃除はあまり必要ありません。しかし、「耳のトラブルに早く気づけるように」「必要な時に点耳薬などのケアができるように」するために、普段から耳を優しく触り、耳の中を覗くことに慣らしておくと良いでしょう。
稲川動物病院の皮膚科専門診療について
稲川動物病院では月に1回、皮膚科の専門診療を行っています。治りにくい耳の病気にお困りの方や、耳のケアについて専門的な相談をしたい方は受診が可能です。こちらには所定の皮膚科初診料がかかるため、詳しくは当院までお問い合わせください。
よくある質問(Q&A)
Q:耳ケア(点耳薬)を嫌がる場合、どのように対処したらいいのでしょうか?
A:点耳薬を人肌に温めて刺激を減らし、点耳を我慢できたらトリーツ(おやつ)を与えるなどして、少しずつ慣らしていきましょう。
あるいは、動物病院で長期作用型の点耳薬を投与してもらうこともお勧めです。
Q:適切な耳掃除の頻度は?
A:稲川動物病院では、すべての犬や猫に定期的な耳掃除が必要とは考えていません。正常な耳には生理的な耳垢の排出機能が備わっているため、基本的に耳垢がたまることはありません。耳の構造に異常(狭窄やイボなど)がある場合や、アトピー性皮膚炎などの基礎疾患がある場合は外耳炎のリスクが高くなるので、耳の状態や汚れの程度を診て個体ごとに耳掃除の必要性や頻度を判断します。
Q:どうしても汚れが気になる時はどうしたら良いの?
A:耳介(外側)の汚れは、湿らせたコットンやガーゼで優しく拭き取る程度なら問題ありません。耳の洗浄液を含ませたガーゼを使うと汚れが取れやすいです。ただし、臭いや汚れがひどい場合は外耳炎の可能性があるため、動物病院を受診してください。
まとめ
愛犬や愛猫の耳の健康を気にして、毎日耳掃除をしている飼い主様もいますが、むしろ逆効果になることがあります。耳の異常が見られた場合は、自己判断せずに動物病院で相談するようにしましょう。
稲川動物病院では、できるだけ負担が少なく治療ができるように、数種類の点耳薬や内服薬から治療を選択し、ご提案しています。耳の健康を守るために、正しい知識を持ち、適切なケアを行うことが大切です。
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